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追込み漁

執筆者:

写真:垂見健吾

漁師自身が水に入って魚を網に追い込むという沖縄独特の漁法。比較的簡単な漁具でたくさん魚が獲れるのが特長だが、その前提として水温が高いということがある。他の地方では漁師みずから水に入るという発想が出てくるはずがない。
 数十人がかりでグルクンなどを獲るものを特にアギヤーという。これが実現した裏にはミーカガン(水中眼鏡)の発明があった。1884年に糸満の玉城保太郎がモンパノキとガラスを素材に、両眼式の水中眼鏡を考案した。それまでも追込み漁や貝などの採取が行われていなかったわけではないが、裸眼と水中眼鏡では効率が違う。これを機に追込み漁は大きく発展した。
 アギヤーでは数隻のサバニが共同して漁を行う。陸から数キロの沖合い、水深10メートルほどのところにまず海底に網を設置し、遠くから魚の群れをその中に追い込む。その際に、綱や棒にひらひらを付けたスルシカーという道具を水中に下ろして魚を脅し、網の中に誘導する。水中では言葉が使えないので、リーダーの意図を正しく読みとって一致協力して動かないと魚群を逃がしてしまう。近年のアギヤーはスキューバも使っていよいよ規模が大きくなっている。

礁湖の中ではもっと小規模な、数人の追込み漁も行われる。これはサンゴとサンゴの隙間にできた谷状の地形の出口に網を張っておいて、反対側から魚を追うもので、夕食のおかずを獲ったり祭りの料理の準備をするのに最適(ぼく自身やったことがあるがなかなか楽しい)。この場合も魚を追う方向とタイミングがしっかり頭に入っていないと魚は横から逃げてしまう。
 おもしろいのは魚が決して網の上を越えようとはしないことだ、彼らは必ず下を潜ろうとする。従って網の底は海底に密着していなくてはならない。最後は網の真ん中に集まって途方にくれている魚の群れの真ん中にスルシカーを降ろしてかきまわし、魚がパニック状態になって暴走、網に頭を突っ込むように仕向ける。
 数人で行うと書いたが、もとにはこれを一人でやってしまう名人がいる。仲村善栄さんは80歳を過ぎているが日に10回ほど網をしかけるという作業をほぼ毎日している。しかも仲村さんは水面ちかくにいるイカの群れをそっと網で囲って獲ってしまうという魔法のような漁もする。追込み漁の究極の姿である。