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サン

執筆者:

写真:垂見健吾

生命力の強い植物にはヤナムン(悪霊・魔物)を撃退する力があると信じられている。その代表的な植物がススキ(方言名グシチ)である。ヤナムン祓いの呪具として使われるススキは、普通、根元から切り、先端の葉を結んだ状態のもので、奇数本を用いることが多い。これをサンあるいはゲーンと通称している。地域によってその呼称は異なり、例えば久高島くだかじまではサイ、宮古の宮国ではマータと称している。

主な使用例は、神饌(酒・食)を準備し、保管している時、その上にサンを置く。墓の新築後、空き墓の状態の時にサンを入れておく。葬儀で墓を開ける時、サンで墓内を祓う。葬儀の時、棺の上に置く。マブイこめの時に使う。田畑、川等の立入禁止の表示としてもサンが立てられる。年中行事の中では陰暦2月、8月の屋敷御願ヤシチヌウグヮンの時、屋敷の四隅、畜舎、便所、住居の四隅の軒にサンをさす。建物にはススキを結ばずに桑の木と束ねてさすのが一般的である。なお、このススキと桑の木の束を柴と称し、これをさす行事を柴差しと称している地域もある。桑も生命力(繁殖力)の強い植物である。また、屋敷御願の時のサンの数も必ずしも一定ではなく、多くさすほど呪力が増すと考えられている地域もある。

宮古の宮国では、病気等で身体が弱っている者のタマス(魂)は肉体から抜け出て他界の入り口である海岸に行っていると考えられ、このタマスを連れ戻すという儀式がおこなわれる。この時、神女がマータ(サン)であたりを祓い、タマスをすくいとるとそのマータを背に差して後をふりむかずにタマスの主の家に帰って行く。

ヤナムンを祓い、聖なる状態を保持する時にはいつも、サンが呪具として使用されるのである。