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おなり神

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聞得大君の就任の儀式が行われた斎場御嶽(沖縄県公文書館所蔵)

オナリあるいはウナイとは姉妹のことである。おなり神は、姉妹の霊力に対する信仰と言おうか。つまり、姉や妹の霊的な力が男兄弟を護ってくれるということ。男の側からすれば姉妹は人であると同時に神でもあるから、航海や戦争に出る時には姉妹の手巾(ティサジ)や髪をおまもりとして貰ってゆく。遠方で危難にあった兄を救うために、妹が白い鳥になって飛んでいったという話もある。宮古島を除く沖縄全域に古くからあって、社会構造にも大きな影響を及ぼしてきた。

これを単に兄弟に対してだけ働く力と見ずに、女性に宿る霊力とすると、俗の側の支配者は男で、霊的な方は女性が受け持つという、1種の二重支配の構造が造られる。ニーガン(根神)はニーッチュ(根人)に対してオナリであり守護者であり、ニーッチュがべる世界の霊的な指導者でもある。

同じようにして、各地に割拠した豪族である按司あじに対しては神女としてのノロがいた。琉球全体を統一して治めた尚王朝では、世俗的な権力は王とその官僚集団に帰するが、霊的には聞得大君きこえおおぎみ以下の神女群が権限を持つ。

古代日本にもこれに似た制度があったことは、古事記などにその例を見ることができるし、卑弥呼が巫女だったという説はあるいはおなり神信仰に結びつくかもしれない。中世以降の日本では男性の武力ばかりが社会を動かしたようだが、沖縄では女性の霊力も重要だった。「いなぐやいくさぬさちばい(女は戦のさきがけ)」という言葉があるように、実際に戦いに際して女性が先頭に立って、呪力で相手を押しふせようとした。

女性一般の霊力を信じる気持ちは今の沖縄でも強く、ノロやユタが精神生活において大きな力をもっていることは、この事典にそれらに関する項目が多いことからもわかる。

沖縄で、身近な女性の霊力が危険な海で働く男性にどう働くか知りたければ、谷川健一の小説『海の群星むりぶし』を読むのがいい。民俗学・文化人類学の方では伊波普猷いはふゆうの『をなり神の島』や柳田国男の『妹の力』などが必読文献。