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カー

執筆者:

垣花樋川(かきのはなひーじゃー)
写真:垂見健吾

人間によって利用されている湧水。自然に地表に溢れ出ている湧泉、人工的な掘抜き井戸、自然洞穴の底に湧く洞穴泉などの総称。井、井泉、川などの字を当てるが、いわゆるかわではない。

水の入手が難しく、かつ重労働であった昔は、水源であるカーと集落の成立は深い結びつきがあった。特に共同井戸は、飲料用としてはもとより、洗濯、水浴、家畜や農作物の洗い場として村の中心的存在であり、情報交換、娯楽(井戸端会議)の場でもあった。
 最近は上水道の普及によりかつてほど重要視されなくなったが、水道の水源、灌漑・工業用水として利用されているものも多い。しかし、すっかりすたれ、ゴミ捨て場と化しているところも少なくない。

有名なものとして、沖縄の製紙発祥の地と伝わる金城樋川かなぐしくひーじゃー那覇首里しゅり金城町)、寒水川樋川すんがーひーじゃー(同首里寒川町)、嘉手志川かでしがー糸満市大里)、金武大川きんうっかがー(金武町並里)、具志堅ぐしけんカー(本部もとぶ町具志堅)があり、糸満市の与座よざカーのように一時米軍基地の水源用に接収されていたものもある。

また、宮古では水を汲むためにわざわざ洞窟の底まで降りて行かねばならないのでかーと呼ばれている洞穴泉が中心。特に水量豊かなものは暗川くらがーという。水汲みは女の仕事で、彼女たちを苦しめた。

現在でも清掃が行き届き、澄んだ水が滾々こんこんと湧いているカーがあったら、そこは名水に違いないので、ぜひ飲んでみるといい。かつて、沖縄が飛び抜けた長寿県である重要な鍵として、石灰分に富んだ水を挙げる説があったくらいだ。そして、なによりも美味しい。
 若夏わかなつの頃、日射しにあぶられ坂を登っている時に通りかかった久米島宇江城うえぐすく。路傍の一段低まったところに、冷たそうな水をたっぷり湛えた井泉かーが。飲料水という扁額に惹かれて立ち寄った。泉の底から透明な水が揺らめくように湧き、よく見ると半透明の小エビが沢山棲んでいる。置かれていた柄杓ひしゃくで呑んだ水のうまいこと。ほどよい冷たさ、無臭無刺激、ほんのりとした甘さ(というより滑らかさ)。なにより喉も体も本当に素直に受け入れてくれる。これが水だ。日頃飲んでいる蛇口から出てくる液体は一体なんだったんだろう。などと小賢しいことを思ったのは、1杯のはずが6杯も呑んでしまった後だった。