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スク

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写真:垂見健吾

アイゴの稚魚をスクという。内地ではアイゴに対する偏見が強い。だが、それは西と南に行くにつれて薄れる。首都圏では磯くさいとか、小便の匂いがするとかいって嫌われるアイゴが、九州では煮魚として上々の味とされることからも、この偏見がいかに根拠薄弱なものであるかがわかろう。

沖縄では、スクに逆の意味の偏見を持っている。旧暦6月の大潮の3日間を過ぎると、スクは食えなくなると真顔でいう人が多い。これは、一概に偏見とばかりはきめつけられない。

なぜなら、初夏の大潮に乗って島の沿岸に雲霞の如き群れをなして押し寄せるスクは、珊瑚礁の内部に入ると同時に、この魚本来の食性を取戻し、植物性のものを主たる餌にするからだという。それまでのスクは外洋に生活し、プランクトンを食って育つ。つまり、一定時期までと区切る鋭い味覚による偏見(?)がここから発している。だが、珊瑚礁の中に分散したスクなど、漁のしようがないわけだから、どれほどの味の差なのかは知る術もない。

写真:垂見健吾

雲霞の如きと書いたのは誇張ではない。押し寄せる時期にその群れの中に潜ると、スク以外のものは殆ど見えなくなる。この習性を利用し、沖縄では網によるスク漁が行われる。刺身と唐揚げが絶品で、ジンタ(アジの稚魚)の唐揚げも比肩し得ないほどの美味である。

スクは塩漬けにされ、年間を通じて賞味される。それがビン詰めにされたスクガラスで、豆腐にのせて食う。とび上がるほど塩辛いスクガラスが、豆腐の味をひきたて、絶妙な取り合わせになる。ビン詰めのスクガラスは、なぜかビンの内側で頭を下側に向け、丁寧に一匹ずつ並べて入れられる。沖縄特有のテーゲー主義が、スクガラスに限って全く見られないのは、非常に興味深い点である。