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ウグヮン

執筆者:

写真:嘉納辰彦

神仏に対して願いごとをすること。仏壇や墓前だけでなく、沖縄では地域の神事を司る神人や霊能力を持つというユタたちが、拝所(神が宿るとされる聖域)でウグヮンをウサゲて(捧げて)いる光景をときどき目にする。首里方言では、そういう聖域のことを「ウガン」、そこに手を合わせることを「ウグヮン」と、発音で区別していたらしいが、最近では「ウガン」のことを御嶽うたきと言うのが一般的だ。

本土と比べると、沖縄人(うちなーんちゅ)と神様との距離はまだ比較的近いかもしれない。旧暦の毎月1日と15日に、台所に祀った「火の神」に手を合わせる家庭は少なくないし、旧暦の3月(地域によっては2月)、8月、12月に「屋敷のウグヮン」(屋敷囲いの四隅や門、家の神様、トイレの神様に家族の繁栄をお願いする儀式)を行う家もまだ残っている。
 不幸が重なったり、失敗ばかり続いたりすると、沖縄の人は「ウグヮン不足」で神様に怒られているのではないかと疑う。地元の古老たちは、火(火・太陽の光)、水、風(空気・気候)によってこの地球上の生物が生かされているんだと言う。自分のことばかり考えて、そういう謙虚な気持ちを忘れてはいなかったかと不安になるのである。「ウグヮン」は、人間のおごりを抑えるためにも重要なのではないかと思う。
 神仏にただお願いごとをするだけでは申し訳ないので、それなりにお供え物も準備する。ここでは便宜的に「ウグヮン・グッズ」と名付けて、ひとつずつ紹介しよう。

写真:嘉納辰彦

◯線香

沖縄では平御香ひらうこーと呼ばれる線香がよく使われる。細い線香が6本横並びにつながっていて、平べったいのでこの名がついた。ウグヮンに使われる本数に決まりはないが、通常は12本と3本で1セット。つまり、平御香2枚と1枚を半分に割ったものを使う。12本は12カ月を、3本は天・地・人の調和を意味するという説もある。

◯打ちかび

カビジンとも呼ばれる紙銭。ウグヮンのときには、3枚1セットで使う場合が多い。これはあの世で使うお金を意味する。天国の祖先があの世で買い物に困らないようにと、お祈りが終わった後に燃やして、あの世に送る。あちらの世界でもお金が必要なのか、神様(祖先じゃなくて、沖縄で信仰されている火や水、風、土地などの神様)もお金を使うのか、という細かいことを考える人はあまりいない。

白紙しるかび

習字用半紙を8等分し、そのうちの3枚を重ねてさらに半分に折ったものでひと組。 お祈りが終わった後に打ち紙と一緒に燃やす。あの世で着る着物(布)になるらしい。この場合も、あの世で着替えが必要なのか、神様も服を着るのか、という考えても分からないことには頓着せず、とにかく燃やす。 

泡盛(一合くらい)

花米はなごめ

普通の米だが、神に捧げるときは花がつく。

◯供え物

御三味うさんみといって、餅・豚肉・昆布などの煮しめを供えるのが本式ともいうが、最近は果物やお菓子など、品物にはこだわらない。

これらのウグヮン・グッズを全部収納できる、広辞苑くらいの大きさの「瓶子(びんしー)」という木箱もあって、ウグヮンを生業とするユタなどにとっては必需品となっている。これはさすがに、一般家庭で持っている家は少ない。