内容をスキップ

トーカチ、カジマヤー

執筆者:

トーカチの支度
写真:嘉納辰彦

トーカチは数え88歳のお祝い(米寿)で、カジマヤーは数え97歳のお祝い。一般的には、トーカチは8月8日に、カジマヤーは旧暦の9月7日に行う。世界に名だたる長寿県の沖縄では、その時期になると島のあちこちでおじいおばあが主役となる。

1998年はカジマヤーを迎えた人たちだけで100人を超えた。トーカチに至っては…数えるのも意味がないくらいたくさんいらっしゃった。こういう状況なので、トーカチは親戚だけでお祝いをする。といっても、沖縄は血縁社会だから100人以上の大宴会になる場合も少なくない。当然、ホテルや大きな料亭のホールを貸し切るのだ。

これがカジマヤーともなると親戚だけではなく、地域の人たちを巻き込んでのイベントになる。主役は真っ赤なちゃんちゃんこを羽織り、頭には赤い頭巾、手には大きな風車。豪勢に飾り付けされた、これまた真っ赤なオープンカーに乗り、地域をパレードして沿道からの祝福を受ける。オープンカーが借りられなかった時代は、トラックの荷台にひな壇をつくっておじいおばあを乗せ、村中を回ったという。

カジマヤーは、本来、四辻や風車を指す沖縄の方言である。その日の主役たちが風車を手に持つのも、それに因んでいる。

「子を育て、孫、ひ孫を見守ってくださってありがとうございます。これまでの長い人生、たくさんの苦労もしたでしょう。これからは童心に戻って、楽しい余生をお過ごしください」という子孫たちの気持ちが込められたお祝いなのだ。

しかし、このように解釈するようになったのは比較的最近のことらしい。文献によれば、明治のころまでのカジマヤーは、模擬葬式の儀式だったところも在るようだ。死に装束を着せ、集落の7つのカジマヤー(四辻)を回ったという。それがどういう意味を持つ儀式だったのかは分からないが、生と死を隣り合わせに見るかなり宗教的な色合いの濃いものだったようだ。カジマヤーの名称も「風車」ではなく、こちらの儀式からつけられたものなのだろう。

比べてみると現代のカジマヤーはいかにも軽薄な祭りであるが、いまどき見ず知らずの他人を、それもお年寄りを祝福する機会はどれだけあるだろう。これはこれで大切なのだ。真っ赤なオープンカーに乗った人形のようなおじいおばあを見かけたら、できるだけ車道の近くで手を振って祝福するのが沖縄では礼儀である。

さて、一方のトーカチであるが、これは薩摩から伝わったものらしい。九州では米寿のお祝いをトカキと呼ぶ地域が多いという。これは、米の升を切る斗掻とかきの意味。米寿のお祝いに訪れた人々に、たくさん盛った米にあらかじめ差しておいた8寸くらいの竹の斗掻を1本ずつ配った習慣があったようで、トカキ、トーカチと呼ぶのはそれに由来しているらしい。