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べにイモ

執筆者:

写真:嘉納辰彦

実は、紅イモなる品種のイモは存在しない。現在、紅イモと呼ばれているのは、主に「宮農みやのう36号」と「備瀬びせ」という品種のムラサキ、、、、イモだ。

ある焼きイモ業者によって、読谷よみたん村にもたらされたという宮農36号は、読谷村の土壌にマッチし、たちまち広く栽培され、「読谷紅イモ」として売り出された。しかし、紅イモ栽培は、いくら土が適しているとはいえ、病虫害等の苦労も多かったそうだ。そんな、農家が苦労して育てた紅イモだが、市場では本土産のキレイなイモが好まれ、直接買いつけにくる業者との取り引きが主であった。さらに紅イモは、一般のサツマイモに比べ甘みが落ちるため、生食用としては限界があった。

県産紅イモ普及のきっかけをつくったのは、読谷村内の菓子業者だった。地域に根ざした菓子づくりをモットーにした和洋菓子の店「ポルシェ」が、ある祭りに出品した紅イモ菓子が大きな反響を呼んだ。思いきって商品化した菓子が人気となり、県内の他業者も紅イモを使った加工食品づくりに取り組むようになったのである。

紅イモの魅力は、何といっても色。自然が生んだ鮮やかな紫色だ。また、甘みが弱いという欠点は、昨今の健康ブームの中、逆に「甘すぎない素材」として魅力の一つとなっている。紅イモ商品は、タルト、ようかん、シュークリームと続々登場し、県内菓子店で人気を集め、新しい沖縄土産としても喜ばれている。また、無印良品の「紫さつま芋シリアル」851円は、朝食だけではなく、酒の肴にもイケる。

ところで「紅イモ」のことをムラサキイモ、紫サツマイモと様々に呼んでいる。確かに紅イモという品種はない。色も紅色ではなく紫色だ。しかし、「紅」という高級感漂う響きを、庶民的な「イモ」と結びつけたウチナーンチュのセンス。さらに、紅イモを普及させた農家や業者の苦労を思うと、紅イモという呼び名は、単なる俗称以上の意味をもっているのではないか、と憤慨していたら、友人が「でも、読谷のお祭りは、むら咲まつりなんだよね」とポツリ。なんだか拍子ぬけしてしまった。しかし、サツマイモ2のこともあるので、この美しい名前が消えてしまわないよう、紅イモタルトを食べる度、つい、ウートートーしてしまう。

【編集部注】

  1. 2023年現在、同商品は販売されていない。
  2. サツマイモは沖縄では単にンム(イモ)という。元来、沖縄経由で鹿児島に渡ったはずのンムが、サツマの名を冠して全国に広まったという歴史的事実を指している。