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台風

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1945年の台風被害の様子 (沖縄県公文書館所蔵)

沖縄の台風はすごい。記録によれば、日本における最も強い風の記録は1966年の第二宮古島台風の毎秒85・3メートル。その翌々年の第三宮古島台風も79・8メートル。那覇でも73・6メートルという記録がある。雨の方も1985年の十号台風は宮古島に510・0ミリの水を落としていった。

そういう猛烈な台風を体験してきただけあって、沖縄の人たちが台風に立ち向かう姿勢には感心する。いたずらに脅えるのではなく、威力を知って正しく対処する。昔のような木造の家でも風速25メートルまでは別に何もしなくていい。30メートルを超えるようになると、釘や縄を使って雨戸をしっかりとめる。雨戸が飛ぶと家の中に風が入り、屋根全体を持っていってしまう。雨戸の節穴もふさぐ。たかが節穴といっても、ここから吹き込む雨の被害が意外に大きい。雨戸に近い畳は上げて奥の方へ立て掛けておく。畑の方ではサトウキビは風で倒れないように縄で束ね、芭蕉は葉を切り落として幹だけ救う。実芭蕉(つまりバナナ)も同じ処置をするから、しばらくは実のつきかたが悪くなる。野菜や甘藷はあきらめる。

だが、台風も嫌われるばかりではない。すべて島からなる沖縄では台風の被害も辛いが水不足1はもっと辛い。梅雨から後、秋ぐちまでの水のほとんどは台風に頼っているのだから、台風に対する思いはなかなか微妙なものになる。コースにもよるけれども那覇だと台風1個は平均して110ミリの雨を運んできてくれるとか。

以前、たまたま那覇にいる時に台風が来た。絶好の機会だから、どこかで台風見物をしようと思って、いろいろ考えたあげく、勝連かつれん城址へ行くことに決めた。あそこならば平安座へんざ島へのびる海中道路が見える。高いところだから風も強いだろうが、用心ぶかく登って、無理とわかれば戻ればいい。そこで、レンタカーを借りようと電話をしたところ、なんと「台風が来るので貸出を中止しています」と断られてしまった。沖縄には台風は本気で来るし、人間の方も本気で迎え撃つのだとわかった。しかたなくぼくは登山用の雨衣に身を固め、足はゴム草履という姿で、歩いて首里しゅりに行った。ものすごかった。

【編集部注】

  1. 1972年の本土復帰当時は毎年のように給水制限が起こっていた。1981年〜1982年には326日という全国最長の制限給水日数を記録し、その後も、何度か危機に見舞われた。しかし、その後の水資源開発の整備とともに徐々に改善されており、近年では給水制限は生じていない。