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イザイホー

執筆者:

写真:嘉納辰彦

琉球王朝の聖地・久高くだかで、12年に1度、午年に行われる神事。島で生まれ育った30歳から41歳までの女性が、神女として島の祭祀集団に参加する資格を得るためのもので、多彩な沖縄の祭りの中でも特に注目されてきた。旧暦11月の満月の日から4日間の神事が中心。ナンチュと呼ばれる新しい神女になる女たちは、夫にも明かさないという神の名を祖母から継承する。イザイホーは、新しい霊力セジを受けて、男兄弟を守護する姉妹おなり、家・村の繁栄と安全を願う神女として生誕する、いわば成巫式である。

私は1966年のイザイホーで島を訪れて以来、この神事に参加する女たちの誇りと、その一生を島に結びつけている重いかせの両方を見てきた。二夫にまみえた女も、島外の男と結婚した者も参加できないという厳しい条件がある。ナンチュになった女たちは、以降70歳の退役の儀式を迎えるまで、年間30もの共同体レベルでの祭祀と、家レベルでの祈りをも担うことになるのである。1966年25人いたナンチュも、次の78年には8人になり、90年にはイザイホーは正式には行われなかった。その幕切れは、この神事の神話上の創始者といわれるイティティグルーを出したシム門中もんちゅうの人たちに神が憑き、わずか数人で、仮想の「七ツ橋渡り」をするという痛ましい思いのするものであった。

暗闇に浮かぶ白装束と洗い髪で風を切る女たちが、島の最高神職ノロ、その補佐役ウッチ神、イティティグルー、それに先輩の神女であるハタ神らの指導で、この世と神々の住む世界との境界である「七ツ橋」を疾走してゆく姿が、今でもくっきりと思い浮かぶ。この神の橋渡りが、神女として適格者かどうかを判定するもので、ふさわしくない者は落ちて死ぬと信じられている。女たちは籠り屋や神の庭でのさまざまな行事を経て、新しい神女として認証されることになる。

久高島では、「神に仕える人=祈る人」が、同時に「祈られあがめられる人」である。女たちは、イザイホーで神に奉仕する存在になりながら、神のあらわれ、神そのものとして、男たちから畏敬されるのである。
 島の御嶽うたきの神、海の彼方にあるというニライカナイの神をいつも心に抱いている女たちは美しい。