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トートーメー

執筆者:

写真:嘉納辰彦


「うちはトートーメーがあるからお盆のときなんて大変」なんていう話をよく耳にする。トートーメーは位牌のことだが、そうと知ってもこのセリフの意味するところをつかみ切れない。沖縄におけるトートーメーの重さが、本土のそれと違うからだ。

沖縄ではトートーメーそのものが、先祖崇拝の対象として非常に重要視されている。横長の枠の中に2段にわたって個人の木牌を並べる本土では見かけない形状のもので、幅が60センチもある大きなものを持っている旧家もあるという。

トートーメーのある家は、盆や正月など、年中行事のたびに大勢の親類縁者を迎えなければならない。主婦は働きづめで、経済的な負担も大変だから、沖縄の若い女性たちはトートーメーを持つ男はイヤ!と言うのである。

トートーメーを継ぐのは長男だが、いない場合は男系の血縁が継ぐ。その際にだれならよくて、だれはだめか、複雑なきまりがあるのだ。それについてはここでは省くが、驚くのは継承者をたどってブラジルに移民した一家に行き着いた場合、わざわざ一家が移住先から帰って来ることがあるのだ。どんなに遠くに住んでいようとも、どんな社会的立場を持っていようとも、沖縄に引きもどす磁力を持っているのがトートーメーなのである。

トートーメーは女性が継ぐことはできない。当然のことながらそれは男女差別であるという議論が起きている。火をつけたのは1980年に琉球新報が連載したトートーメー継承問題の記事だった。新聞社の電話は鳴りっぱなしで、山のような手紙が届き、あらためて問題の根の深さが明らかになった。

かようにトートーメーはただの木片のように見えてそうではない。人の関係をつなぐ蝶番ちょうつがいのようなものだから、たとえ多くの社会問題を抱えていても、これが外れるとウチナー社会はばらばらになってしまうだろう。むずかしいものだ。