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アーサ、オーサ

執筆者:

写真:嘉納辰彦

春の訪れを告げるのは草花や鳥ばかりではありません。海の食草アーサ(奄美ではオーサ、和名ヒトエグサ)も、いち早く、春の訪れを告げるものの一つです。旧正月が過ぎるころ、浅瀬の岩に萌えだし、日に日に表面を覆っていきます。若のりは、日差しを浴びて緑の光沢を放ちます。
 新鮮なアーサは、チヌ(クロダイ)の大好物。そのチヌを狙って太公望が釣り糸を垂れます。女たちは、干潮時に浜へくりだし、竹籠をかかえてアーサを摘みます。トコブシ(巻貝の仲間)の殻で岩を掻くようにしてはぎ取ります。腰をかがめ、岩から岩へ移るアーサ摘みは、腰が痛くなります。時々立ち上がってトントンと腰をたたきます。
 岩にはえたアーサと干潟のアーサは、食味が違います。岩アーサは緑色でさらっとした味、香りも強いものです。干潟のはのり状にねばねばしています。
 採りたてのアーサは芳しく、磯の香りがたまりません。新鮮な魚とアーサのたっぷり入ったブイン1汁(魚汁)のおいしさは格別です。

「かばしゃー」(香ばしいこと)
 「トートガナシ」(感謝を込めて「いただきます」)
 熱々の汁を、女たちは目の高さに持ち上げて拝むようにして口をつけます。そんな光景は、今も田舎では日常のものです。おいしいのはブイン汁ばかりではありません。天ぷらにしてもよし、すまし汁にしてもおいしいものです。
 同じアーサでも、コンブのように長く伸びるのもあり、子どもの時夢中で採っていたら村のおばあさんに「それは食べられん、インヌオーサ(犬のアーサ)と言って、犬のえさにしかならんよ」と言われてがっかりしたことを思いだします。
 アーサは、乾燥させて保存食にもなります。カサカサになったアーサを、女たちは小包みにして都会の子どもたちへ送りました。

【編集部注】

  1. ブインは奄美の言葉で「新鮮な」の意。