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カチャーシー

執筆者:

写真:嘉納辰彦

泡盛の一升瓶を抱いて、車座になって酒を飲むのが、沖縄的宴会というものである。ビニール袋に入った氷をプラスチックのコップに入れ、どぼどぼと泡盛を注ぐ。つまみは乾き物と刺身。刺身はマグロかサバ、タコなどが多い。何故か醤油には酢を入れたりする。隅の席ではハチマキをした兄さんが三線サンシンを爪弾いている。しかし、一見所在なさそうな彼だが、実は密かに機会を窺っているのだ。宴会の進み具合を計算し、人々の血中アルコール濃度と気分の上昇度を推し量る。よし(アネ)、今だ(ナマヤサ)! 突如彼の右手が痙攣のように素早く動き出し、三線がけたたましく響くやいなや、カチャーシー・タイムが始まる。
 三線の早弾きに乗せて、満座の中で順次踊り狂う、その踊り(場合によっては音楽も)をカチャーシーと呼ぶ。ダンスにステップがあるように、カチャーシーにも独特の振りがあるのだが、それらを組み合わせて即興で踊って良い。ま、酒の席の座興ですな。
 内地人(ナイチャー)がカチャーシーをうまく踊ることは大変難しい。格好良く踊ることは至難の業である。こればかりは芸能の島・沖縄に生まれ育った人間でないと、ハマらないらしい。ひとりずつ立ち上がって踊っては、次に踊る人を指名するというルールがあり、指名された人はいかなることがあっても踊らねばならぬ。それも、ただ踊るだけではなく、即興で皆を楽しませることが必要だ。筆者は何とかウケようと思い、腕立て伏せをしたり、腹踊りをしたという暗い過去を持っている。
 曲が民謡なので、沖縄の若い世代には苦手な者も多く、名手とされるのは大抵年配のご婦人である。おばさんやおばあさんたちが嬌声を挙げつつ踊る、これが誠に格好良く、兄さんの弾く三線の音、指笛、歌声、ハヤシ声が彩りを添え、亜熱帯沖縄の夜は更けていくのであった。