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蒲葵くば

執筆者:

写真:垂見健吾

那覇などの都市部では見極めが難しくなったが、すこし農村部に行くと集落の旧家、特に宗家を探すいい方法がある。
 外来者の期待に反して、必ずしも立派な門構え、立派な赤瓦屋根の家とは限らない。時代はすすんで見かけだけでは判別できない。ということは、表だけではわからない。で、どうするかというと、裏に回ってみるとわかりやすい。なにも立派な裏門があるとか何らかの印が施されているということでもない。屋敷内の建物の後ろ側に「くば」がある家こそ宗家なのだ。絶対的にというわけではないがほぼ間違いはない。

くば。蒲葵という字を充てる。ヤシ科植物で亜熱帯性で常緑性で高木。琉球列島、台湾、南中国など暖地に自生すると、植物の本には紹介されている。先ほど紹介したように宗家、あるいは御嶽うたきと呼ばれる聖域に生えていることが多い。自生している「くば」はよく見かけるが、屋敷内に「くば」が生えていることにより、その家の神格を表しているとも考えられる。
 沖縄では神の島と称される久高くだかは、それこそ「くば」の島ではないかと錯覚するくらいに「くば」におおわれている。それほどに神聖であり、イザイホー行事などでも「くば」の葉がよく用いられる。このことは、太古の昔の時代を言い表す「蒲葵ぬ葉世」という言葉があるように、沖縄神々界の頂点に立つ久高島と「くば」の関係は意味深い。

ところで一般的に「くば」というと、それは「くば扇」であったり、「くば笠」を連想させる。
 「くば扇」はいい、実にいい。沖縄のおばぁの香りがするし、オーバーな話をすれば、おばぁが扇ぐ風は人々を幸せにしてくれる。未だ青いくばの葉を押し広げるようにして、畳の下などに敷いて寝かしておく。枯れて表面がならされたころになると、葉の大きな筋を外側にして末広状にして切り、形を整える。それで「くば扇」ができあがる。おばぁが扇ぐ時、自身のところだけに狭く風を送るのではなく、孫とか客とかにも広角度で扇ぐ。それも適当なスピードで、しかしけっして手を緩めることをしない。これができると、立派な沖縄のおばぁになれる、はず。
 「くば笠」も「くば扇」に負けず劣らず立派な存在である。
 とうとう沖縄に移り住んだ池澤夏樹さんが言っていた。「農民と漁民が被る『くば笠』は異なる」と。なるほど、農民用は陽射しからわが身を守るために広い形に、漁民用は陽射しを避けつつも海だから風があるので深い形になる。同じ「くば笠」でも用途によって異なるわけだ。

「くば」は神の風を吹かし、人々を強い陽射しから守ったりと、沖縄の日常に溶け込み、人々から愛されるグッズの地位をしっかりと確保している。

与那国島の伝統工芸であるクバの民具。作:輿那覇有羽(よなは ゆうう)
写真:垂見健吾