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知名定男ちなさだお

執筆者:

提供:ディグ音楽プロモーション

沖縄音楽ブームと言われた1990年代前半、東京などでは坂本龍一の曲を通じて沖縄の音楽を意識し始めたという人も少なくなかっただろう。だが、知名定男は「坂本龍一のは偽物だから聴かんでよろしい」などと言っていた。ヤマト(本土)の人間に理解できなくてもいい。私の唄こそ本物の島唄だ! 知名定男の舞台からは、そんな自信と誇りが強烈に伝わってくる。いまや沖縄民謡界の長老となった彼のCD6枚組『島唄百景』(2009年)は、第51回日本レコード大賞企画賞を受賞した貴重な島唄集だ。

知名はプロデューサーとしても活躍し、1990年夏には女性民謡コーラス・グループ、ネーネーズを世に出した。ネーネーズは「お姉さんたち」という意味で、メンバーは古謝こじゃ美佐子、宮里(吉田)康子、宮里奈美子、比屋根幸乃の4人。古謝は、坂本龍一のバックとしてヨーロッパ・ツアーにも同行したオキナワ・チャンズのメンバーだった。ネーネーズはその後、何度もメンバー・チェンジを経て活動を続けている。

古謝美佐子もまた「どんな時代になっても、島唄は絶対になくならない。三線サンシン一本あれば、いつでもどこでも島唄はうたえる」と言うのだが、ネーネーズはシンセサイザーなどを取り入れたモダンなスタイルの洗練された唄・演奏によってヤマトの聴衆を魅了した。1991年春に発売されたファースト・アルバム『IKAWU』は、美しく力強い声の響きと親しみやすいアレンジで評判になった。

このころ、知名はマスコミのインタビューに答えて「かつて沖縄には唄が満ちあふれていた。時代を後戻りさせようとは思わないけれど、もう一度、唄が満ちあふれていたころを思い出そうじゃないか」と、さかんに言っていた。唄の島をめぐる大きなロマンが広がる。だが、沖縄以外の本土各地ではどうだろう。それぞれの地方の唄は、元気に生きのびているか? 沖縄に比べれば、これはもう、ほとんど惨憺たる状況では? 知名は、だらしないヤマトの現状をボロクソに言うのだが、さて、あなたはどう思いますか?