内容をスキップ

民謡レーベル

執筆者:

写真:垂見健吾

琉球の島々は日本本土とは異なる歴史を歩んできたため、沖縄民謡は本土の民謡と大きく違う。そうした個性的な沖縄民謡を専門に扱う初めてのレコード会社「丸福レコード」が、1927(昭和2)年、普久原朝喜によって大阪で設立された。戦後は、地元沖縄に民謡専門のレコード会社がいくつも生まれた。日本国内で地域独自の音楽シーンがしっかりと存在し、ローカルなレコード類がたくさん制作発売されたのは、沖縄県だけだ。

沖縄市のマルフクやマルテル、那覇のゴモンなど、ローカル・レーベルの沖縄でしか手に入らないレコードやカセットテープを買いあさる。かつてはそれが、本土の沖縄音楽ファンにとって沖縄旅行の大きな楽しみのひとつだった。それらのアルバム・タイトルには、たとえば「嘉手苅林昌かでかるりんしょう特集」だとか「カチャーシー大会」というような、一種独特のスタイルがあった。この「特集」や「大会」といったネーミングの感覚が、本土の人間には新鮮というか、いかにも沖縄という感じで楽しかった。

だが、1990年代前半、東京では沖縄音楽がブームだったが、本土からの観光客で賑わう那覇の国際通りに沖縄民謡などまず流れていなかった。2〜3軒あるレコード店に入ると沖縄民謡コーナーに直行し、せっせと音源を探しているのは、私のような沖縄音楽マニアだけ。地元の若者たちにとっても、民謡は年寄りの古臭い音楽であり、魅力的なのはまずJポップだった。若い世代で沖縄音楽の再評価が進んだのは、21世紀に入ってからだ。

レコードは、1980年代にカセットに置き換わり、1990年代にはCD化が進んだ。そうしたメディア交替のプロセスで、すべての曲が新しいメディアに再録されるわけではなく、失われていく音源がどうしても出てくる。それでも貴重な音源がずいぶん復刻CD化された。今ではわざわざ沖縄へ行かなくても、そうしたCDをインターネットで購入できる。便利になったが、実際に沖縄のお店で欲しい音源に出会い、「あった!」と心躍らせた体験がある世代にとって、インターネットでの購入はちょっと味気なくもある。

(2022年9月改訂)