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アバサー

執筆者:

写真:嘉納辰彦

ハリセンボンのことである。本土では殆ど食用にしないハリセンボンを、沖縄では味噌汁にして食する。一度アバサー汁の魅力にとりつかれると、イカの墨汁同様に、これを味わうために沖縄へ出かけたくなる。
 元来がフグの類いだから、美味であることに全く不思議はない。皮をむき、ぶつ切りにして汁の実にするのだが、歯ごたえのある魚肉は勿論、肝の美味さは、まさにフグ、アンコウ、カワハギなどに匹敵する。

土地によっては、アバサー汁に生のヨモギの葉を浮かす。この苦みと香りがまたアバサーの味に合い、独特の匂いを消す働きをする。ものの味を損う最悪の要素は、見てくれと偏見に引きずられることだというが、アバサーは偏見を捨てて味わうべきものである。
 アバサーは湯豆腐に入れてもかなり美味だと思うが沖縄は暖地のせいか、湯豆腐を供せられたことがない。あるいはヨモギで中和しなければならないほどの匂いが、湯で強められるからだろうか。