ハジチ(針突)
入れ墨のこと。縫い針を束ねて突き、墨で模様を刻んだことからきた。女性が一人前になる印、成女儀礼として手に施したもので、南島女性のシンボルでもあった。しかし明治政府によって禁止され、わずかな残存者も高齢で、ここ数年で消滅してゆこうとしている。完全な形を整えたものは、もうお目にかかれまい。
南島の女には、ハジチと共に一生を送った歴史があった。夫よりも、お金よりもハジチを望み、それをしないとあの世で浮かばれないと歌に残っている。死んだ幼児の手にも墨で模様を描いた。
手には南島の世界・宇宙観が造形されている。魔除けのための〈五つ星〉、始祖伝説にかかわる〈ヤドカリ〉、性的な意味を持つ〈ホーミグヮー〉つまり子安貝、再生の象徴としての〈蟹〉の模様、〈矢の先〉は、嫁いだら2度と戻って来ぬ矢のようにとの願いを込めて彫るというが、これは目に見えぬ悪霊・敵を威嚇しているのであろう。模様は、島々により変化に富み、実に多彩だ。機織りの模様を刻んだものもある。その手の中の蒼く沈んだ入れ墨に、南島の女たちの思いや願い、病気や災難から身を守ろうとする祈りの心が窺えて胸に迫る。