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トートガナシ

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(奄美の)旧盆、先祖へオガミをする。口のなかでユタの呪文みたいに意味不明の唱え言を呟き、終わったところで「トートガナシ」と言う。はっきり聞こえるのはこの結句だけだ。

両親や祖父母は、それをすまして、かたわらでかしこまっている子や孫に、「うれ、こんどはおまえがトートしなさい」と座を譲る。

かと思うと、山中のやぶに入るとき、「トートガナシ、まちげぐとあらんがぬし……」ととなえて、やぶに踏み入る。やぶにはハブがいるかも知れぬ。どうぞ災いごとがありませんように、と祈るのだ。

そうかと思うと、季節の初物をいただくとき、「トートガナシ」と呟いて、恭しく拝んで口に運ぶ。

「トートガナシ」は、ことほどさように、あらゆる局面で応用される。ただ、いずれの場面でも、「トートガナシ」が、投げやりに唱えられることがないということ。だれもみな、そのときは厳粛な面持ちになる。

沖縄の「ウートートー」に相当するだろうか。やや近いが、微妙に違う。