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かみアサギ

執筆者:

写真:嘉納辰彦

主として、奄美大島、沖縄本島北部のシマ(集落)などで、シマのノロ(神女)たちが神祭りを行なう建物。もともと沖縄には、民家の本宅の前庭の東側にメーヌヤ(前の屋)という建物があり、客間とか、いろいろな用途に使われているが、これをアサギと呼んでいる。このアサギという建物と区別するために、神アサギ、神アシァギと呼んでいる。

神アサギには、2つの類型がある。その一つは奄美・かけろま島に見られる、茅葺きで、柱が四隅と四辺の中央にあり、合計8本で屋根を支えるという床なしの掘立て小屋、あるいは床はあるが、柱と木を組み合わせただけで壁状のものを作った建物である。そして、もう一つの類型は、沖縄本島北部や伊是名島いぜなじまなどで見られるもので、床張りはなく、土間である。この場合、軒の高さが極端に低いのが特色で、はうようにしないと中へ入れなくなっているものである。このような神アサギの2つの類型の違いは、軒高の高低である。どうして軒高が低いかについては、外部からノロの神祭りの儀礼を見られないようにという考え方があるが、これでは、奄美の神アサギの説明がつかないことになる。

神アサギは、特定の場所に建造されるが、その場所はシマの広場などが多い。普通の日には農具などがおかれたりしているが、シマの神祭りにはシマのノロたちが盛装して、それぞれ定められた座を占め、ウムイと呼ばれる神謡を唱え、ミキ(米の粉を鍋で炊き、お粥状になったのに、薩摩芋を細切りにして混ぜ、醗酵させた飲物)を飲む儀礼を行なう、聖なる祭場になるのである。

海の彼方やシマの人々の信仰の中心である御嶽うたきから降臨するカミを迎え、祭るのが神アサギでのノロたちの神祭りである。この場合、神アサギにおけるノロたちの占める座が重要視される。もし欠席するノロがいた場合、その場所にカブリカズラなどと呼ぶ草の冠やそのノロの神衣をおいたりして神祭りをする。また、神アサギにはタモトギと呼ぶ丸太があり、ノロたちが座る時の腰当てであるとされている。ノロが欠席した時にはその空席を礼拝するが、これをタモト拝みというシマもある。

神アサギはノロたちの神祭りをする聖なる祭場であるが、シマの人々にとって、シマを加護する御嶽とともにシマの人々の精神的、信仰的中心でありつづけてきた。しかし、近代化の波がシマジマに及び、現在では木造、茅葺きの神アサギは姿を消し、かわら葺き、コンクリートに建て替えられるようになって、その姿を残している。そして、なお、深刻なのは神アサギでの神祭りの主役である肝心のノロたちの後継者難である。そのため、神祭りを中断するシマやまたノロが2、3人で神祭りを細々と継続しているシマも多く、淋しい限りである。