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アワビタケ

執筆者:

写真:垂見健吾

初めて沖縄へ行ったのは1991年の秋だ。那覇に泊まった。
 何もかも初めてづくしのうえ、2泊3日という短い滞在なので、無駄があってはもったいないと、沖縄通の友人に情報をもらうことにした。彼女は、沖縄ファンをもうひとり増やさんものと、見るべきところ、食事をすべき店などを、懇切丁寧に一覧表にしてファックスで送ってくれた。

食べることは旅の大きな魅力である。
 着いた日のお昼は、公設市場の2階の食堂で食べ、夜は沖縄料理の店でコースをとり、と万事彼女の指示どおり運び、沖縄ならではの美味にうっとり大満足だった。
 だが、あいにく翌日は日曜日。日曜祭日も開いていると教えられた店に電話をしたが、どういうわけか通じない、とあいにくが重なった。そこで、同行の友人とふたり、まあ、今夜は「普通」で我慢しましょう、とニュートーキョーに入った。メニューを見る。「普通」が並ぶ中に「普通」でないものがあった。「アワビタケとべーコンのソテー」その下に「本土で人気」とある。これ、行ってみよう!
 大きめのそぎ切りにしたアワビタケは、その名のとおり色も形状もアワビそっくりだ。それまでに食べたどんな茸よりもクリッとした歯ごたえがあり、べーコンとも相性がよくておいしい。その淡い風味とテクスチャー(感触)を味わいながら、おみやげに買おうと決意する。

 翌朝、再び公設市場ヘ。ありました、アワビタケ! シメジのひとつひとつの単位(?)が巨大化したような風貌である。軸がぽってりと太く、なるほどこれならダイナミックにそぎ切りができる。早速買い込んだ3パックのアワビタケは、エビと一緒にいためたり、ホイル焼きにしたりして我が家の食卓を飾った。

アワビタケの原産地は台湾だが、宮古島では菌床を輪入し、フライト産品の新たな目玉として生産に力を入れているそうだ1

【編集部注】

  1. 最近では生産者は全国に広がっている。宮古島産は「本あわび茸」と呼ばれている。