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ヤマクニブー

執筆者:

写真:嘉納辰彦

「ヤマクニブーってさ」

「なにそれ」

「ほら、家とかタンスとかに虫除けとか湿気取りとかでさげてるさ。枯れた葉っぱを束にして。見たことない? 小さな白い玉もついてる」

「あー、あれなー。あのくさいヤツ」

この一カ月会う人毎にヤマクニブーの話をしている。(面白いネタがあればいただき…)なんて思ってたが甘かった。というのも十中八九がこのやりとり。知匂度は高いが知名度は低い。でも、しかたないよな。私だってヤマクニブーと出会って8年(私はヤマトンチュなので)。手に入れたいと思って4年。名前を知って2年。そして、ようやくゲットしたのが今年の6月。

ヤマクニブーとはモロコシソウという和名を持つ多年生植物。海岸に近い石灰岩土壌の山中や川辺に生えている。出荷されているのは本部もとぶ伊豆味いずみ産。植物の組織成分に虫除け効果があって古くから利用されている。驚いたのは、ハブに咬まれたときに、これを酒、酢、水と煎じて湿布する使い方もあることだ。蚊に刺されたときも同様。沖縄のハーブ、アロマテラピー効果のある伝統的な薬草なのだ。黄色い小さな花を咲かせ、実がつくころが一番匂いが強い。生ではあまり匂わず、大鍋で蒸して乾燥させる。それを束にして売る。沖縄の梅雨明けから夏本番の短い間、6月中旬ころから3週間だけ市場にお目見えする。

私は3年ごしで牧志まきしの公設市場あたりを通るたびに探していた。昨年は6月後半、公設市場の外のカツオブシ屋から三線屋あたりで売っているのを見かけ、喜びいさんで翌週買いに行くと姿を消していた。とってもショックだった。今年は(もうそろそろだ)と6月中旬に張っていたら、出てる、出てる! あいにく今年も両手一杯の荷物。しかも子連れ。

今年こそ絶対逃さないぞ。「いつまで売ってますか?」とおばさんにしっかり聞く。すると「あるまで売るさ」「来週はありますか?」「ないとない。あったらある」と返され、その場で3束も買ってしまった。1束500円、3束1000円だったはず。1

ところで、ヤマクニブーってどんな匂いなのか。これを表現するのがとても難しいのだ。沖縄の人は口を揃えて「おばぁの匂い」だと言う。しかも線香かじゃー(匂い)のおばぁの匂い。いい匂いとも嫌な匂いともどちらとも言えない。でも懐かしい昔の匂い。大和の線香と沖縄の仏壇で使う線香(平御香)は匂いが違う。香より煙っぽい感じ。それが染み付いたおばぁがサンピン茶をすすってるときに、ふっと香ってくる匂いというのかなあ。嗅げば嗅ぐほどなんだか癖になる匂い。私は好きな匂いです。

【編集部注】

  1.  2023年現在の価格については、6月に市場調査の予定。