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サバニ

執筆者:

写真:垂見健吾

サバニは元来松を使った刳舟くりふねだったといわれる。それが杉材に変り、現在は板舟を経てプラスチックへと変った。

沖縄独特のものと考えられているが、鹿児島県の南方の諸島、奄美諸島にも同様の舟があったという。だが、私の知る限り奄美ではもう余り見られない。やはり、沖縄を彩る漁撈文化のひとつと考えて良いだろう。

サバニは一見、小型で細身でひどく頼りない。だが、漁撈に生きた民は誇るべき造船文化を持っており、この舟を頼りに大洋を航海し、朝鮮にまで造船技術の指導に出かけたといわれている。サバニに乗って驚かされるのは、その耐波性の良さと敏捷さである。しかも、小型に出来ているために、実に使い勝手が良い。網を積んでの漁を目的としない限り、釣りの漁船としては、内地の横幅のある舟よりも、サバニの方が遥かに優れている。

『老人と海』という写真集にはこんな一文がある。

「サバニにエンジンを積んでいなかった時代、海に出て台湾坊主(この地方特有の突発性暴風雨、与那国よなぐにの漁師もいちばん恐れている)に出会ってしまったときは、サバニを沈ませ、人はそのへりにつかまって嵐のすぎるのを待ったという。また、舟に揚げられないほどの大きなカジキを釣り上げたが、舟にのせて帰りたいとき、一度舟を沈めてカジキをのせ、水を汲み出して舟を浮かせたという」

このような土着の知恵を、昔の人々は海に生きる場合も、山に生きる場合も豊かに持っていた。文明が次第にそれを奪って、人間を自然に対して無力で、しかも傲慢な存在に変えて行った。

その意味で、サバニは現在まだ生き続ける沖縄の文化そのものだということが出来よう。