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ジンジン

執筆者:

写真:垂見健吾

♪ジンジン、ジンジン、酒屋の水喰てぃ落てぃりよジンジン、下がりよジンジン♪と沖縄各地に伝わる童謡は、蛍のことを歌っている。

ジンジンとは、蛍の沖縄方言。と言っても島々や地域によっていろいろな方言がある。例えば、ジェーマー(知念)、ヤーンブ(宮古島)、ペッカラ(竹富島)、ジンジンパーレー(石垣島)といった具合。ジンジンは那覇地域の方言で、いわば沖縄県の標準語的方言(こんな言葉あるかしら)。

沖縄県には日本産蛍の半数近い種類が分布する。しかし、種類を言い分ける方言はない。よく人々の目に触れ、親しまれる種類は、本島でクロイワボタル、オキナワスジボタル。先島さきしま諸島でミヤコマドボタル、キイロスジボタル、オオシママドボタル等々。いずれも幼虫期、陸で小型貝類(カタツムリなど)を食べて育つ陸生ホタル。

内地のゲンジボタルやヘイケボタルのように幼虫期を川で過ごす蛍は、むしろ、全世界に分布する蛍の中では少数派。沖縄では、久米島にクメジマボタル1種が生息し、日本には上記の蛍と合わせて水生ホタルは3種のみ。

ある時、小学校の先生が「蛍は清い川に住みます。ですから、蛍を守るためにも川を汚さないようにしましょう」と話したところ、離島育ちの生徒が、「家の近くには川が無いのに、畑で蛍を沢山見かけます。どうしてですか」と質問し、先生がこまったというエピソードがある。中央からの知識を受け売りした先生の弁よりも、無垢なまなざしで現実を見すえた子どもの疑問の方が的を得ている。

蛍と言えば、発光する昆虫の代表格だが、発光様式も様々で、息づくように明滅する種もあれば、強い光を持続する種、断続的に閃光を発する種などがいる。なかでも変り者は、イリオモテボタル科の1種で、雄は発光せず、雌は雄と出会うまで尾端だけで発光し、産卵後は変化して、卵を守りながら各体節ごとにある3個の発光スポットで光るというタイプもいる。おまけにこの蛍、成虫出現時期が12月から1月にかけてで、「蛍は夏の生き物」とする考え方からすれば、沖縄は常夏の島なのかもしれない。