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立神たちがみ

執筆者:

写真:垂見健吾

タチガン、トンバラ、トゥンガン、タチセなど島々によって呼称は異なるが、港口や沖合に吃立する岩をさして「立神」という。琉球列島に広く分布するが、とりわけ奄美諸島に多い。

奄美民謡のなかでもっともポピュラーな「いゆんめやんめ節」、一名「行きゅんにゃ加那節」に、次の歌詞がある。

♪鳴きゅん鳥ぐゎ

 立神ぬ沖なんてぃ鳴きゅん鳥ぐゎ

 吾きゃ加那やくめが生きまぶり

 スラ 生きまぶり

 訳・立神の沖で白い鳥が鳴いている。あれはきっと、愛しい人のマブリに違いない

名瀬の立神は湾口のほぼ中央にそそり立ち、「行きゅんにゃ加那節」のほか「島育ち」など、しばしば新作民謡の素材となる。笠利かさり町赤木名沖の立神、大和村今里の立神、瀬戸内町西古見沖の立神など大小11の立神をかぞえる。

海中にある立神は、海の彼方から幸をもたらす来訪神=神の依りしろ、としての観念が強く、多かれ少なかれ土地の信仰と結びついているのが特徴だ。

立神は、海上にのみあるのでなく、陸上にもあって、その最大のものが伊江島タッチューだとする見解もある。そしてタッチューもまた島の守り神であり、中腹に、航海安全と健康を祈願する御嶽がある。海上であれ陸上であれ、立神は空にそびえて人目につくため、多くはその島のシンボル的存在だ。

与那国よなぐに島サンニヌ台の立神はつとに知られた立神である。地元ではトゥンガン(屯岩)とかウブティディと呼んでいる。昔、ウブティディの頂上に産みつけられた海鳥の卵を取るため、ひとりの若者がこの岩を登った。ところが降りるに降りられず、疲労と悲嘆のうちに眠りにおちた。目ざめてみると、陸地にいたという話が『遺老説伝いろうせつでん』にしるされている。

シンボルといえば、与那国のトゥンガンはまがまがしいほど男根に似ている。このため子宝に恵まれない女たちが、これを拝んで願をかけた。この風習は近年までみられたという。