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シャコ貝

執筆者:

アジケーの刺身
写真:垂見健吾

シャコ貝を初めて見た人は、なんと大きな貝だと思うだろう。土産店などに置かれたオオジャコ貝には、とても一人で持ち上げられそうもないものがある。
 しかし、もっと比べものにならないくらい大きな貝がある。干上った珊瑚礁を歩いていると見かけるヒメジャコがそれ。珊瑚の岩の中に全身を埋めるようにしているが、貝の中を覗き込もうとするとビックリする。その口の中には、時としては緑色を帯びたオーロラの切れ端が輝いているし、運が良ければ妖しくうごめきながら青紫色に輝く、ビッグバン何万年後かの宇宙の新生児時代を垣間見ることもできるのだ。要するに果てしない宇宙を内包した貝、それがヒメジャコ。だから、僕は密かにこの貝を尊敬している。
 実は、ヒメジャコに潜む宇宙の正体は、共生相手である褐虫藻が大量に棲んでいる水管であり、褐虫藻が光合成を行う光をとり入れるレンズ細胞や、光の調節をする虹彩細胞があの不思議なキラメキを放っているのだ、などと科学的説明をする人もいるが、ヒメジャコの真の姿を理解していないのだろう。

かつては、どこかの島宇宙のように沢山見られたこの貝も、その味の良さから乱獲され、漁獲量も激減。値段もうなぎのぼりで、1991年12月、那覇公設市場では、刺身に100グラム1000円がついていた。8センチ以下の体長のものは捕獲が禁止されているうえ、稚貝の放流による養殖も試みられているが、まだ目に見える成果は上っていないようだ。かつてはアジケーガラス(ヒメジャコの塩辛)もさかんに作られていたが、今では幻の味になりつつある。沖縄に棲むシャコ貝は、他に、ヒレジャコ、ヒレナシジャコ、シラナミガイ、シャゴウ、オオジャコなど。一般的に沖縄本島付近ではアジケー、八重山ではギーラと呼ばれ、あまり厳密に区別されていない。よく見かける、門柱の上、門や玄関の脇に置かれたシャコ貝は、単なる飾りではなくれっきとした魔除け。

それにしても、あの宇宙を足元に覗き見ることができる不思議な裂目が減ってしまった珊瑚礁原の寂しさときたらない。