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鬱金ウッチン

執筆者:

写真:嘉納辰彦

肝臓に良いと言われて近年の健康食ブームで一躍有名になり、酒飲みに重宝がられている食材。標準語ではウコン(鬱金)。独特の香りがあり、インドではカレーの香辛料として欠かせないらしい。いわゆる「ターメリック」のことだ。
 辞書には「ショウガ科の多年生宿根草」とある。確かに見かけは黄色いショウガ。煎じてお茶にしたり、粉末化された物が商品化されているが、中には生を丸かじりする猛者もいて、5年ほど前に一度だけその光景を目撃したことがある。
 場所は首里しゅりのある拝所。神人によって管理されている屋敷の軒下で、その酔っ払いおじさんは一夜を過ごしたのだろう。撮影のためにそこを訪れた僕に気づいて起き出し、どいてくれるのかと思って見ていたら、きれいに手入れされた庭からウッチンを引き抜き、井戸水で洗ってバリバリ食い出したのだ。
 「二日酔いにはよ、これ(生ウッチン)が一番さぁ。食べてみるか?」
 おじさんは親切にもそう勧めてくれたが、罰当たりと食あたりが怖くて丁重に辞退した。

後日、ウッチンが県内でどのように利用されていたのか調べると、二日酔いはもちろん、腹痛や結核、喘息などの治療のために、煎じて飲んだり、おろしてお汁に混ぜたり、豚肉と炒めたり、地域によっては「生で食べた」りした所もあった。あの酔っ払いおじさんは正しかったのだ。
 ウッチンが、その昔は県内各地で薬用として使用されていたのは分かったが、身近な食材だったかというと、そうとも言えないようだ。薩摩の琉球侵攻(1609年)後、島津藩は砂糖と同様に、ウッチンも専売制にした。薬用または染料として大阪の堺に運び、高値で売りつけてぼろ儲けしたらしい。そのため、庶民は大っぴらにウッチンを扱えなくなった。役人の目の届かないところで隠れて利用していたのだろうが、以後約四百年の間に新薬の普及などもあり、その存在は少しずつ忘れ去られていった。

90年代以降、再び脚光を浴びているウッチン。いろいろと加工されて、県外にも出荷されている。沖縄でも健康茶の中ではポピュラーになってきた。とくに、風俗店から高級クラブまで多種多様な飲み屋が集まる那覇市松山の、わりと客の年齢層が高い店では、ウッチン茶を常備している店が少なくないという。これで泡盛を割って飲むのだ。二日酔いが軽くなる(ような気がする)らしい。泡盛の美味さは消えてしまわないのだろうか。
 僕のおじいは85歳で死ぬまで、泡盛の古酒を毎晩1合だけ、1杯の水をチェイサーにしてストレートで飲んでいた。僕はこっちを選びたい。そのためなら、翌朝のウッチン丸かじりも我慢できそうな気がする。