内容をスキップ

うりずん

執筆者:

うりずんの頃の山原やんばるの水辺
写真:垂見健吾

なかなか説明のむずかしい言葉だ。冬が終わって、大気や大地に潤いが増し、いよいよ暖かくなるという時期の気候。春といってしまえば簡単だが、内地でいう春とはまるで感じが違う。この言葉の語源は「うるおめ」であるとされる。沖縄は南にあるから内地よりははるかに暖かいが(1月の最低気温の平均値は東京で4・1度、那覇では14・0度)、それでも寒さの実感はある。冬至のころの寒さをトゥンジービーサといい、旧暦の12月8日、鬼餅(ムーチー)を作って食べる日の前後の寒さをムーチービーサと呼ぶ。それからお正月が来て、旧暦で2月から3月ぐらいになると、そろそろうりずん。旧暦は少しずつ動くから季節感との間にずれも生じるが、やはり旧暦3月3日の浜下はまおの前後が最もそれらしい。
 季節感というのは旅行者にはいちばんわからないもので、うりずんを実感するには、たぶん旧正月の頃からずっと沖縄にいなくてはならないだろう。沖縄には沖縄なりの冬がある。北風の中でちぢこまっていた草木が、やがて南風を受けて緑も濃く背を伸ばしはじめる。麦の穂が出て、稲の苗も育つ。浜下りの時にひょいと行って、大体今ごろがうりずんですと教えられて、そうかとは思ったが、たまたま寒い日だったし、今一つ実感が湧かなかった。
 このうりずんといつも対で使われる言葉に若夏わかなつというのがある。これはうりずんの少し後、旧暦の4月、5月というから、ほぼ沖縄の梅雨と重なることになる。美しい言葉だ。歌の中だと「うりづみのはつ/わか夏の真肌苧まはだお……」という具合にいつでも対で使われる(『うりづみごゑにや』)。しかし、こういう詩語を最近はみんな宣伝用のキャッチフレーズにしてしまう。沖縄語の場合、最近はやるのはこの「うりずん」と「かりゆし」である。生活の中から湧く実感がないままに言葉だけが先行するというのは、少し残念なこと。