トゥンジービーサ(冬至寒さ)
トゥンジービーサ(冬至寒さ)とは、沖縄では旧暦の11月頃、冬至の前後に吹く季節風のことをいう。
暑い夏もやっと過ぎ、ここちよい秋の訪れに感傷的になったのも束の間、北からの寒波に「オー、寒い」と南国育ちのウチナーンチュ(沖縄県人)が、肌で感じる寒さをトゥンジービーサ(冬至寒さ)と昔から言い伝えられてきた。この寒さを元気で乗りきるために、冬至の日には各家庭とも神様やご先祖にトゥンジージューシー(冬至雑炊)をお供えして、家族の健康を祈る慣習がある。ジューシー(炊き込みご飯)にはターンム(田芋)、アッタミ(豚肉)、クーブ(昆布)、シマナー(からしな)、チデークニー(人参)、カシティラカマブク(沖縄独特のかまぼこの一種)などを入れる。
沖縄では昔から、月に1度はふだんよりも手間隙かけて作った食事をする習わしがあった。その日のことをヲゥユミ(折目)と名付けていた。ただし、1年12カ月のうちに、10月だけは年によってはヲゥユミがなく、アチハティジューグヮチ(あきあきする10月)といってご馳走にありつけなかった。現在の飽食の時代とは異なり、当時は子供ごころにも、その日(ヲゥユミ)が来るのをこころ待ちにしたものだ。
そういえば幼かった頃、母の手伝いで井戸端で野菜洗いをしたことがある。あの時の水の冷たかったこと……。北風の吹く井戸端で、鼻をすすりながら葉っぱの一枚一枚を裏返しながら丁寧に洗ったものだ。あの頃は農薬を使わないので、青虫の卵がいっぱい付着していた。わたしの役目はその虫の卵をきれいに取りのぞくことだった。現在では考えられないことばかりで、良き時代だったように思われる。
トゥンジー(冬至)を迎えるたびに、ご先祖から受けついだ沖縄の伝統行事の一つ、トゥンジージューシー(冬至雑炊)を作り、「長寿県沖縄」1を背負っている年代の一人として、トゥンジービーサ(冬至寒さ)を乗りきろうと思う。
【編集部注】
- 沖縄は日本一の長寿県であったが、2000年の国勢調査で男性が26位に転落した後、2020年の都道府県別生命表では、男性が43位、女性が16位にまで順位を落としている。