内容をスキップ

通り池とおりいけ

執筆者:

写真:垂見健吾

宮古島の平良ひらら港からボートで4、50分西へ行くと、伊良部いらぶ1があり、伊良部島に接して、まるで伊良部島の一部のように下地しもじ島がくっついています。
 この下地島の西側は断崖絶壁の海岸が続いていて、沖縄でももっとも有名なダイビングポイントのひとつ、通り池2があります。

まず断崖絶壁を前に、ボートからエントリーしますと、海中に直径20メートルものアーチ(岩壁の大穴)が見えてきます。これが通り池への海からの門となります。いえ、陸上から通り池へ行くのはかなり困難なので、海中の門が唯一の池へのアプローチと言ってもいいでしょう。つまり通り池は、島の海に近い岩場にぽっかりあいた真水の池で、池の底が海と繋がっているわけです。
 さて、海側からこのアーチをくぐると、通り池の底に入ります。そのあたりはまだ海水なので、イソマグロやヒラアジ、ときにはサメなども見られます。カスミチョウチョウウオの大群もいますし、岩のアーチには、ミノカサゴも棲みついていました。

写真:垂見健吾

さて、池の底からゆっくりと上昇をはじめますと、次第に水の色や温度が変化してきます。ある場所まで上がってくると、サーモクラインと呼ばれている乳白色の春がすみがたなびいたような層になります。
 海水と淡水が混ざり合ったところに出来る不透明なこの層には、プランクトンの死骸などが浮遊しているわけですが、通り抜けるときの不思議な感覚は他では味わえません。視界が白くかすみ、水温が変わり、異界に呑まれたような感覚に陶然とさせられます。

そしてこのサーモクラインを抜けると、水は急に冷たくなります。そこはもう淡水の世界です。やがて池の面にぽっかりと顔を出します。四方は岩で囲まれ、よじのぼることも難しい(初心者ダイバーで、来た道、、、を戻るのが嫌だという人は、この岩壁をよじのぼるしかありませんが)池の真中に、ダイバーが次々と浮かび上がってきます。
 ふつうダイビングでは、海面に近いほど水温は高く、深場ほど冷たくなるものですが、この池では上の方が冷たいのです。

潜水技術のない時代に、一体どうやってこの池の底から海に通り抜け、、、、られると知ったのでしょう。長い釣り糸でも垂れた人がいて、そこにイソマグロでもひっかかり、これは大変だ、この池は海に繋がっているぞ、と大騒ぎになったのかもしれません。

【編集部注】

  1. 2015年、宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋(全長3540メートル)が完成した。通行料金を徴収しない橋としては日本最長。
  2. 通り池は「下地島の通り池」の名称で、2006年、国の名勝及び天然記念物に指定。