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ウージ畑

執筆者:

ウージ畑
写真:垂見健吾

「行ってこよーねー」
 アメ玉2つポッケに入れて、今日もおじいはウージ畑に行く。でも、家族みんなが知っている。ウージトーシ(キビ刈り)の時期でもなく、耕作面積も減っている今、毎日畑に出る必要はない。実際畑では、働いている時間より他のおじいたちとお喋りをしている時間の方が長い。それでもおじいは毎日ウージ畑に行く。
 幼い頃、ウージトーシの時期の到来は、おじいの目の色が変わることで知った。ウージトーシは、まず公民館でクジを引くことから始まる。製糖工場へ毎日一定量のウージを搬入できるように、各農家の搬入の順番を決めるのだ。「○番から○番の農家はよろしく」という放送が公民館からあると、指定の日までにキビを刈りとり、綺麗に束にして積み上げ、トラックの運転手がわかるように「○○のキビです」と札をたてて、準備しておかなくてはならない。
 畑ではおじいが法律だった。キビを刈る人、葉を除く人、束ねる人、運ぶ人を人選し、1束を何本にするのか決める。少なすぎると何度も運ばなくてはならないし、多すぎると肩や腰に無理な負担をかけてしまう。キビの出来、運ぶ人の体力等を考慮して、「1束○本」と高らかに宣言する。ごはんやおやつの時間を告げるのもおじいだ。
 それにしても、ウージトーシの時期、台所を預かる女たちも大変である。食事はティビチやソーキといった力のつくものを、そしておやつも皆が飽きないように、色々用意しなくてはならない。若い高校生アルバイトを雇っている農家は、さらに彼らの好みも考えなくてはならない。実は、このウージトーシのアルバイトは部活をしている学生にとって、遠征費用等を捻出する大切な年間行事の一つなのだ(某校野球部は、これでピッチングマシーンを購入したらしい……)。アルバイト以外にも、特に男の子はウージ畑にお世話になっているはず。そうエッチ本だ。誰が捨てていくのか、何故ウージ畑なのか知らないが、ウージ畑のエッチ本は先生には秘密の学級文庫として活躍していた。

とまあ、ウージ畑には結構楽しい思い出のある若い世代だが、ウージで生活してきた人にとってはそれだけではないだろう。
 おじいは言う。
 「土地改良したり、ハーベスターとかがある今の時代と違ってねー、ウージ担いで、足場の悪い所、何回も何回も往復しよったよー。雨降っても、腰痛くても、休めなくてねー」
 そうやっておじいは、6人の子供を育てあげた。ウージ畑は、しょっちゅう台風の被害を受けていた悩みの種でもあったが、優秀農家として表彰も受けた自慢の種でもあった。
 おじいは畑に出ることをやめない。
 沖縄には、こんなおじいが沢山いる。
 アメ玉2つポッケに入れて、今日もおじいはウージ畑に行く。
 「行ってこよーねー」