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亜熱帯

執筆者:

写真:垂見健吾

琉球列島の気候帯は亜熱帯気候と言われているのが通説である。この亜熱帯の「亜」という漢字は漢和辞典などを見てみると「つぎ。第2位」などの意味があることがわかる。また、亜熱帯とは「熱帯と温帯の中間地帯」と説明されている。
 しかし、私たちの感覚から言うとウチナーグチ沖縄語)で「熱帯グヮーシー」という表現がピッタリくるのではないだろうか。このときの「グヮーシー」とは「○○のふりして」という意味になる。つまり、亜熱帯とは熱帯のふりをしているのである。決して温帯のふりをした「亜温帯」ではないことに気を付けたい。

亜温帯ではないから、春夏、秋冬の四季がはっきりしない。ことに、春と秋がはっきりしない。2月の冬からいきなり4月の夏突入という感じである。また、10月の夏から、いきなり12月の冬突入というぐあいなのだ。春や秋のロマンスやセンチメンタルにひたる余裕がないのである。
 おまけに、「熱帯グヮーシー」なので5月頃からは25度以上の寝苦しい夜が続き、11月まで、そんな熱帯夜が登場したりする。したがって、琉球弧の大人たちはビールか泡盛を飲んで暑さを忘れる文化を発明している。
 まじめな研究者によると「琉球列島は亜熱帯ではなく熱帯である」と主張する人もいる。なんせ1月から桜が咲き始めるのだから、つい賛成したくなる。ただ残念ながら、いまだ乾期と雨期の2シーズンでの制覇が完璧ではない。

こうなると琉球弧の気候・風土はそこの住人と同様にアイデンティティーがアイマイかもしれない。温帯と熱帯の間に引き裂かれて。しかも「熱帯グヮーシー」しながら。いや、人間が先か、気候風土が先か。
 そう言えば、沖縄出身の大詩人・山之口貘やまのぐちばくも琉球人という誇りを持ちながら、戦前は琉球出身ということはできるだけ隠すようにして暮らしていた。有名な「会話」という詩で、好きな女性に「お国は?」と訊かれて、「南方」とか「亜熱帯」とか「赤道直下のあの近所」としか答えられなかったのである。そういう風にしか答えられない自分に腹立ちながら。「この、亜熱帯が見えないのか」とおこりながら。
 やはり「赤道直下のあの近所」なので、「熱帯グヮーシー」であろう。しかも、最近は地球温暖化のせいか亜熱帯はますます熱帯に近くなって、みんな心配しているのである。亜熱帯には白い雪が降らないので1、子供たちは温帯にあこがれたりもするのだが。

【編集部注】

  1. 2016年1月24日、沖縄本島で観測史上初めて雪が観測された。