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海ぶどう(ンキャフ)

執筆者:

写真:垂見健吾

和名はクビレヅタ。宮古方言でンキャフという。商品名としてグリーン・キャビア、海ぶどうなど。

自生地はごく限られている。波のおだやかな入江の、底が砂地か砂泥地になったところ。西表いりおもて島や由布ゆふ島、小浜島、宮古島与那覇よなは湾、伊良部いらぶ島と下地しもじ島の水路、久米島などが自生地として知られる。なかでも最大の群生地は宮古の与那覇湾である。イモヅルが地を這うように、砂泥地を覆っている。水深は1~3メートルといったところで、主に久松地区の人たちが採っていた。小舟をこぎだし、見当をつけて水中に入る。水中めがねで底を見ると、濁った水のなかに黒い塊りがゆらゆらと揺れている。それを引き抜いてくるのである。船に揚げるとき、ンキャフはずっしりと重い。ごみや泥がいっぱい付着して、おそろしく汚れている。鮮やかな緑色の房を期待していただけに、これには幻滅した。

ンキャフは一本の根から茎が伸び、茎から次々と葉部が出る。長さ8センチほどの葉部が無数の粒を付ける。粒の大きさは約2ミリ、さながら魚の卵である。ただし水揚げまではうす汚れた卵。
 これが色鮮やかなグリーン・キャビアに生まれ変わるのは、女たちの根気のいる夜なべ作業をへてからである。台所に積まれたンキャフの山から、一本ずつ手もとに取って、一房一房ちぎって、付着したごみを除き、泥を洗い落とす。黙々と、時には眠気ざましの冗談ぐちをたたきながら、夜明けまでその単調な作業を続ける。おまけに、山のようなンキャフから、製品になるのはびっくりするほどわずかな量である。それを見て、店に出るとけっこうな値がするのを高いなどと言ったらバチが当たる、と思った。

ンキャフは、奇妙な植物である。醤油につけるとぐにゃッとつぶれるが、水に戻すとみるまに元のかたちにかえる。5~10度の冷蔵庫だと約3カ月は鮮度を保つ。
 口に入れると、ぷちぷちと粒がはじけてその歯ごたえがなんともいえぬ。酢味噌につけると酒のつまみにはもってこいだ。巻きずしの具やフランス料理の素材にも使われる。カルシウム、マグネシウム、リン、ビタミンAを含む。

1986年から本格的な養殖が始まり、今では沖縄本島恩納おんな村が年間30トンを出荷するまでになった。主産地の宮古島の数倍に当たる量である。1

【編集部注】

  1. 現在、主に久米島、糸満市、恩納村で養殖がおこなわれている。