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クーブ(昆布)

執筆者:

クーブイリチー
写真:垂見健吾

昆布である。沖縄料理で昆布は豚肉や豆腐と並ぶ主役の一つだから、毎日の食卓で頻繁にお目にかかる。ちなみに、全国の主要都市別の統計でみると、那覇の昆布消費量は1世帯当たり年間1696グラム。これは日本一だそうだ1(それにしても、よくこんなことを調べたものだ)。日常一般によく食べる物だから消費量も多いのだが、よく考えてみれば昆布は利尻や日高など北海道の産物で、沖縄には産しない。生活の中にここまで入りこんでいる以上、昔々から輪入されていたはずだが、何がこんなに昆布を流通させたか。
 調べてみると、江戸時代に黒砂糖を売った代金が昆布に化けていたことがわかった。北海道の昆布は北前船きたまえぶねで日本海をくだって、関西や下関・門司へ運ばれていた。沖縄の黒砂糖はもっぱら薩摩商人の手で大阪に運ばれたが、一部は下関・門司へも渡った。薩摩商人は砂糖の代金を回収するために、琉球に昆布を売りつけることにした。貿易の許諾権を薩摩藩が握っていた以上、独占的に勝手な値で売れたのだろう。それとは別に、昆布はナマコやアワビと並ぶ中国への輸出品で、琉球を経由する分量も多かったから、一部が中継地で消費されることもあったかもしれない。松前藩に搾取される蝦夷と、薩摩藩にいじめられる琉球が昆布で結ばれたわけである。

それでも沖縄のクーブはおいしい。細く切ってイリチーにするのが普通。中にマグロやカジキを入れて煮た昆布巻き(クーブマチ)の方は、シーミーなど行事の際のお重箱の中でお目にかかることが多い。
 昆布でダシを取ることはしない。たぶん、こんなにおいしい貴重なものを、ダシだけ取って捨ててしまうなどもったいなくてできなかったのだろう。それに、ダシを取るのなら、沖縄には鰹節と豚がいくらでもあるのだ。

【編集部注】

  1. 1983年のデータ。那覇市の昆布の消費量は、長寿県沖縄の転落と歩調を合わせて下降、2020年の消費量は287グラムで10位。