内容をスキップ

かぎやで風

執筆者:

写真:嘉納辰彦

沖縄本島の結婚式やトゥシビー生年せいねん祝)、近代的なビルの落成祝い、あるいは舞踊会など、祝賀行事の開幕にまず演奏され、踊られるのが、この「かぎやで風」である。もともとは曲名で、御前風と呼ばれるように国王の前で演奏される代表的な三味線(三絃サンシン)曲の一つとされる。踊りは老人踊りが本来の形であるが、今日では男女を問わずいろいろな形で踊られる。明るくて格調があり、しばしば能の翁にたとえられるように、喜びの場にはまことにふさわしい曲である。口のきけなかった王が初めて口をきいた喜びを、鬼大城おおぐすくと呼ばれた忠臣が、この歌にして詠んだとする芝居も作られており、沖縄芝居の人気演目の一つとなっている。
 カジャディフウと発音され、この語源については諸説あるが、輝かしいという意味の耀かがの訛った(口蓋化した)ものと考えられ、輝かしい踊りの手ぶり、あるいは音楽といったほどの意味である。

歌詞は「今日の誇キュウヌフクらしゃや何をにぎゃな譬てるナヲゥニジャナタティル蕾で居る花の露行逢たごとツィブディヲゥルハナヌツィユチャタグトゥ」(今日のこの喜びは何に譬えよう、つぼみの花が露を受けて花を開くようだ)が通常には用いられる。江戸で琉球使節によってこの歌の三味線演奏が披露され、荻生徂徠はじめ当時の学者たちは解釈に苦しんだらしく、色々な珍解釈を生んでいるが、それらの迷訳を参照した滝沢馬琴は、『椿説弓張月ちんせつゆみはりづき』のなかで、この歌を悲しみの辞世の歌にしてしまっている。