石敢當
民家の塀などに設ける魔除の護符。大きめの表札のような石の板に「石敢當」とか「石敢当」と彫って、丁字路や三叉路のつきあたりのところに掲げる。字の印象でわかるとおり、もともとは中国起源のものだが、沖縄ではどこでも見かける。丁字路と三叉路に設ける理由がおもしろい。魔物というのはどうも角を曲がるのが下手らしくて、丁字路の正面に家があるとまっすぐ入ってきてしまう。侵入されては家の方としては迷惑だから、石敢當でこれを止めるというわけ。魔物の方は「敢えて石に当たって」砕けるのだろうか。
原則として丁字路や三叉路ごとに設置すればいいのだから、普通ならばさほど目につくものではないはずなのに、これを見ないで歩くことは決してない。沖縄ではすべて道路は曲がりくねり、つきあたり、分かれている。直角に交差している方が珍しいのだ。那覇の市内で、知らない道をだいたいの見当で歩いてゆくと必ず迷う。道そのものが少しずつ曲がっている。微妙な角度の三叉路を何度も抜けたりしているうちに、とんでもないところへ出てびっくりする。そういう道だからこそ、石敢當もたくさん必要になる。京都や札幌のような格子状の町並みならば設置する場所がないだろう。
先日、壷屋のある角を曲がったら、目の前に10枚ぐらいの石敢當が並んでいた。ぼくが魔物だったらくるりと回れ右をして、一目散に走って逃げたくなるくらいの威力がある。なにもこんなに並べなくてもいいのにと思ってよく見ると、そこは表札と石敢當を売っている店で、魔除として本当に機能しているのは1枚だけ、残りは売り物だった。