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フクギ(福木)

執筆者:

フクギに囲まれた赤瓦家
写真:垂見健吾

福木は、風が吹いてもさらさらとは揺れない。びりびり痺れるように振動するような気がする。木登りに適しているわけでもなさそうである。花が咲き、散って落ちる頃は近くを通ると臭い。決してやわらかな香りという花でもない。ガジュマルがガキ大将なら、福木は優等生風なイメージだ。たいていまっすぐに逞しくゆっくりと成長している。
 近頃は、本部もとぶ備瀬びせのように名勝になるくらいめずらしくなったのか、屋敷の囲いに使われていた時代とは変わったようだ。
 葉も硬くて、ままごと遊びのおかずには適さず、お皿になるくらいだ。葉の片側を少し摘んで割れ目を入れ、そこから丁寧に緑色の部分を剥がし、文字や模様に沿って白い膜を残して遊んだ。
 木の幹はごつごつと硬く、これは煎じると貴重な黄色い染料になる。沖縄の染色の黄色は福木が主流だ。

南風原はえばる町の天然記念物の文化財に、推定樹齢300年ほどの福木が7本あった。その1本が、2、3年前に樹木医の治療にも関わらず悲しくも、枯れ果ててしまった。蜂の巣が作られたり枝も倒れかかって危険なので、切り倒すことになった。その際、ぱりぱり剥がせる木の皮を集め、町内のかすり生産者にお願いしてそれを使ってもらった。「300年の文化財だった福木をせめて色で残して下さい」という気持ちだった。さっそくその福木は絹糸に染められ、黄色というよりは少し渋めの「黄金色」に生まれ変わっていた。

余談だが、陸上競技場を作るためにつぶされたサトウキビ畑のキビの葉で、ハンカチを絞って染めた。カーキ色に近い渋い緑色で、消えた景色を色に残した。