長命草
和名ボタンボウフウ。葉っぱのかたちがボタンに似ているところからこの名がついたらしい。漢字にすると牡丹防風。沖縄では一般的にチョーミーグサの名で呼ばれるが、元々の方言名はサクナ(沖縄本島)、サコナン(波照間)、グンナ(与那国)、イショバナ(奄美)、ハマデークニー(与論)などさまざまである。日当たりのよい海岸の岩地や砂地に自生するセリ科の植物で、独特の臭みが鼻をつく。だから最初、波照間島でムシャマという祭りのときだったか、婦人たちがこれを野菜がわりに細かくきざんで刺身のつまに盛りつけているのを見てあれッと思った。食べているうちに匂いが気にならなくなり、なかなかイケると感じるようになった。
与那国では、赤ちゃんの名付け祝いには欠かせないという。「長命」という名にあやかってのことらしい。やはり、刺身のつまに使う。同じセリ科のハマボウフウも、刺身のつまに合うためよく間違えられるが、別の植物。茎が太く、根っこはやや大根に似ている。与論島の人びとが浜大根と呼ぶゆえんだ。この根っこは乾燥して煎じて飲めば、解熱や鎮痛、リウマチなどに効くという。古くから薬草としても重宝された。
「グンナは、茎も葉も少し固い。だから、うんとゆがいてからやわらかくして、味噌あえにする。おいしいですよ。ほかにはそば粉にまぜて、そばをつくる。そうすると、そばが緑がかった色になる。これもおいしいですよ」
与那国島の「生き字引き」、池間苗さんが説明した。そういうことがあって、私は長命草を与那国島から糸満の住居へ移植した。あれから4年、庭の一角に与那国産グンナは健在だが、ちょっと期待外れ。油滓やらなにやら、まめに施肥をしているにもかかわらず、わぶわぶと野性的に繁茂してくれないのである。初夏にはちゃんと花も咲く。しかし本体そのものの丈が伸びず、枝葉にも勢いがない。遊びに来た友人が、「チョーミーグサは、海風の強く当たる場所じゃないと育たない。ここじゃだめだよ」と笑った。
期待したほどには伸びてくれないけれど、枯れずに生きているのがけなげである。山中や人家の庭を好まず、海端で潮風にいためつけられるのが性に合っているとは、草ながら見上げた根性である。