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泡盛あわもり

執筆者:


写真:垂見健吾

1991年にずっと沖縄の映画を作っていた。石垣島の自然を舞台にした海と海人ウミンチュと太陽の映画『うみ・そら・さんごのいいつたえ』という映画だ。そのため例年に増して何度も沖縄に足をはこんだ。撮影がはじまると2か月「住み込み生活」である。東京から100人近いスタッフがやってきて、合宿生活のようなことをした。毎日仕事が終われば当然酒をのむ。そのときぼくははじめて泡盛1の真の実力に気づいたのだった。
 それはどういうことかというと、沖縄のくわっーと暑い熱気と熱風の中で人間が酔うためには厳しく酒を選ぶ、という現象があって、輝け第1位がやっぱりあのビール。そして僅差で泡盛。3位、4位、5位、6位とずーっと17位ぐらいまでなにもなくてやっと18位ぐらいにウイスキー。そしてこれにまたずーっとなくて36位ぐらいまで空位でそのあたりにやっと清酒だのワインだのが位置するという衝撃の事実があった。もっともこれはぼくたちのロケ現場における局部的嗜好のシミュレーションだからこのデータに何の権威も説得力もない。しかし事実は事実であったのだ。しかも第1位のビールも、その輝くトップの座にいられる状態は最初のうちだけで、やがて酔いがすすんでくると、もう泡盛をおいて呑むべきものは何もなくなる。まことに酒の味というのは不思議なもので泡盛は沖縄の風土にぴったり合ったサケなのである。富士には月見草が似合うかもしれないが青い空(夜も)と青い海には泡盛が一番似合うのだ。
 清酒のアツカンなどは見るのもいやだった。そんなものは2万光年の彼方にとんでいってしまえ! と思ったものだ。
 島にいる間、村のオババに泡盛の牛乳割りというのをおしえてもらった。氷を入れ、5対5で割ってのむとうん、なかなか説得力がある。スタッフにこの飲み方をすすめ、みんなして深夜までコップを重ねていた。しかしこの牛乳割りの酒というのは、遠くから見ていると、いい歳をしたおとっつあんが深夜みんなして車座になり牛乳を激しくのんでいるようで少々気持が悪いだろうなーと思う。やはり正しい泡盛のやりかたは「からから」から注いでじっくりぐびぐびというやつだろう。遠くけだるくながれるサンシンの音を聞いてジーマーミドウフ、スクガラスをちびちびと口にして、あつい泡盛の息吹につつまれていく時間というのは南国人生のよろこびたるものだろう。

【編集部注】

  1. 泡盛は、日本の琉球諸島で造られる蒸留酒。主にタイ米を原材料としている。