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リュウキュウイノシシ

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比較的大きな動物でありながら、あまり関心を持たれていないのが、沖縄の陸上動物の雄、リュウキュウイノシシである。生息する地域では今にいたるまで畑の被害に悩まされながら共生しているが、ほかの地域では「イノシシ? そう言えばいるってねえ」程度の認識といってよい。こういう私も、イノシシがどう人と関わっているのか、まったく何も知らなかった。
 少し知るようになったきっかけは「イノシシサミットinやんばる・奥」という集まりが95年、本島北部のはずれの奥という集落で行われ、それに参加したことである。主催は「山原猪研究会」という、やんばる地域の民俗に関心を持つ人、実際にイノシシを猟る人、畑の被害に遭っている人などの集まりである。沖縄のみならず本土からもイノシシ研究者を集めた学術フォーラムと、奄美・沖縄の生活の中でイノシシと関わる人のゆんたくフォーラムが行われた。おそらくイノシシをめぐる最新、最大の集まりだったといえるだろう。初日にはイノシシ汁もふるまわれ、公民館規模の会場で行われた講演には実に熱い眼差しが注がれた。翌日には、奥の集落を万里の長城のごとく10数キロにわたってぐるっと取り囲むように作られた猪垣(いのがき。方言ではカチ、ウーガチ)の一部を、山に入って見学した。複雑な山の起伏に合わせて手抜かりなく石を積んだそれは、深刻なイノシシ被害と共同体の結束の強さを実感するに充分だった。使われたかなりの石は、集落の海岸部から運んだという。参加すれば、沖縄のイノシシにまつわる事柄を無理なく吸収できるイベントだった。沖縄にはこうした中身が濃くしかも素人が気軽に参加できるイベントが多い。

リュウキュウイノシシ(ヤマシシ)は、奄美大島、加計呂麻島かけろじま請島うけしま、徳之島、沖縄島、石垣島、西表島に生息し、ニホンイノシシとともに大陸産イノシシの亜種とされる。さらに最近では奄美・沖縄グループと石垣・西表グループには遺伝子レベルの差異が指摘されている。いずれも大型のものでも60~70キロ程度で、本土産より一回り小さい。山地に住み、しばしば畑を荒らしている。沖縄島では本部もとぶ半島を除いた恩納村おんなそん金武町きんちょう以北のやんばる地域に住む。この地域で、有害鳥獣駆除、銃による狩猟、罠猟で年間100頭程度捕られていると推定されている。農作物被害は地表だけでなく、後ろ脚立ちになってミカンを食べる芸当もする。なかなかアクティブである一方神経質で、ウジという猪道に人為的に木の枝などを置くと、しばらくそこを通らなくなる。この性質を利用して罠猟は行われる。保護するほどではないが、山に入る人達の印象ではやはり減ってきているらしい。また近年、野生化した捨て犬が、子ども(ウリボー)を襲い、懸念されている。1

【編集部注】

  1. 環境省版レッドリスト2020では、絶滅のおそれのある地域個体群に徳之島のリュウキュウイノシシが指定されている。