メダカ
ライスフィッシュ(英名)の名の通り、稲作に深く関係した親しみのある淡水魚。環境庁版レッドデータブックに99年、絶滅危惧類に記載され、全国的に意外感とともに関心を集めたが、沖縄でも事態は同様で、この2、30年で激減しているようだ。
海と関わらないので地理的分布と遺伝的変異の関係が顕著である。日本産メダカは遺伝子分類では北日本集団と南日本集団に大別され、沖縄のメダカは南日本集団の9つの小集団の1つの「琉球型」に属するという(亜種ではない)。琉球列島では奄美諸島と沖縄諸島に分布し、沖縄諸島では沖縄島、渡嘉敷島、久米島(最近の調査では確認されていない)だけに記録がある。
沖縄島南部の水場を歩いていると、メダカは「昔はたくさんいた」という話を耳にする。60年代頃から減り始めたようだ。その原因は2つ。1つは、水田や池沼が減ったこと、農業用水路や川の下流域がコンクリート張りになり流れが単純になって産卵する水草も減ったことなど、生息場所の減少要因で、これは全国的なもの。沖縄の場合、これに競合種の移入が拍車をかけたとされる。北米原産のメダカ類のタップミノー(かだやし)やグッピーがそれで、メダカより繁殖能力が高く、水温の高い沖縄ではすんなり適応し同じ水辺に住むメダカを駆逐した。ダブルパンチを食らったようなものだ。
知人の60年代生まれの中学校理科教諭によれば、教員の研修センターで飼育されていたメダカが実はタップミノーだったという笑えない話もあるそうだ。自身も野生のメダカを見たことはなく「グッピーがメダカだと思っていた」という。それほどきれいさっぱりと、沖縄のメダカは急激に姿を消し、タップミノー、グッピーに置き換わっていったのである(タップミノーもグッピーに追いやられているという話もある)。
メダカを淡水魚の指標と考えるなら、ほかの種も推して知るべし。沖縄島の淡水魚分布を調べている琉球大学の立原一憲氏によれば、現在のメダカの生息地は約10カ所でほとんどが北部。その数自体も少ないという。それもさほどメダカの生息に適した環境ではないそう。なんだか「細々と生き延びていた」というイメージなのだ。逆に言えば、本来のボリュームゾーンだったはずの中南部からは、ほぼ完全に姿を消したことになる。氏は「メダカは、まだ『危ない』と思われただけまし。知られるまえにいなくなった種もあるのでは」と危惧している。同時に「レッドリストに載ると残った生息地が荒らされる罪もあるが、一般の関心を保全に向ける功を伸ばしてほしい」と話している。
96年、「レッドデータおきなわ」1の危急種(絶滅、絶滅危惧に次ぐ)に指定された2。同書では、汽水・淡水魚類は絶滅種0、絶滅危惧種2、危急種6、希少種3に対し、未決定種は27もある3。早急な調査が望まれる。
【編集部注】
- 沖縄県レッドデータブック:https://www.okinawa-ikimono.com/reddata/index.html
- 2017年、絶滅危惧Ⅰ類に指定された。
- 2017年作成のリストでは、沖縄の魚類は絶滅種1、絶滅危惧種83、準絶滅危惧種10、未定30となっている。