ヒンプン
家の庭にしつらえる目隠しで、語源は中国語の屏風。沖縄の民家は庭側に門があるので、道路から丸見えにならないようにヒンプンで視線を遮る。ヒンプンの良い点は、門扉のように拒絶的ではなく、見えるようで見えないファジーなやさしさがあるところ。材料は一枚岩、石積み、板塀、生け垣、花壇などさまざまで、ヒンプン見学は沖縄の民家巡りの楽しみのひとつである。
むかしは男性はヒンプンの右側から、女性は左側から入ると決まっていたそうだ。建物の向かって右側に客間があるからで、女性にかぎらず、御用聞きや使用人も右からは入れなかった。つまり右は表玄関、左は勝手口というわけである。女性が右から入れるのは正月だけで、そのときは「正月なので右から入ります」と声を掛けて通ったという。(大竹昭子)
琉球建築の民家における典型的な様式のひとつである。
門と母屋との間に設けられる「目隠し」的な造形をいい、中国語の屏風に由来するといわれている。一般的に正門が南面していると、門を入って右方(東)より上客が儀礼的な一番座へとすすむ。左方(西)は日常的な利用の二番座や台所への動線となる。
国指定重要文化財である中村家(北中城村)のヒンプンがその典型であるが、東方にアシャギ(離れ)があり、西方に高倉(高床式の倉庫)などがある。
「魔除け」という役割もあるが、通りからの目隠しと南風の屋敷への合理的な取り込みように妙味がある。門扉を排除して南風がまずヒンプンにあたり、両側に上手に流れ込み中庭から各座敷へと涼風が行き交うのである。
風土的にうまい風通しを考慮した一方で、気軽に隣人が出入りでき人心の開放的な交流の場を演出している。
堅牢な門構えを取払い、通りからプライバシーを守りながら排他的でないところが、いかにも沖縄的といっていい。
石組から煉瓦、木、竹などいろいろな材料が使われる。ゲッキツや仏桑華を刈り込んだ生垣状のヒンプンは、さらに涼感をよぶ。伊是名島などにみるテーブル珊瑚を積みあげたヒンプンは白砂の庭と対比して、強烈な太陽光線のもと美しいコントラストをみせる。
墳墓などにもみられるが、最近は公共建築に琉球建築の代表的なローカル色のあるキャラクターとして登場したりする。硝子や噴水をヒンプンにみたてたユニークなのもあって多様化している。
名護市の商店街の入り口にたつガジュマルの大木は、「ヒンプン・ガジュマル」1と呼ばれ、市民に親しまれ、名護市のシンボル的存在でもある。
ヒンプンは沖縄のまさに心象風景として息づいているといっていい。(洲鎌朝夫)
【編集部注】
- 1997年、「ひんぷんガジュマル」の名称で国指定天然記念物。